Ｅｘｉｓｔｅｎｃｅ　ｏｆ　ｙｏｕ



「・・それにしても・・ダイゴがティガやったなんてなぁ〜・・・」


大袈裟すぎる溜息をつくと、ホリイのやつが、今日何度目かになるそのセリフを、飽きもせずにまた繰り返す。
闇との戦いに辛くも人類が勝利してから約半月・・しなければならないことはまだまだ山積みだったが、とりあえず仕事の合間にちょっとだけ雑談するぐらいの時間的なゆとりはなんとか持てるようになって、俺達の中で真っ先に話題に出たのがこの話だった。
幸いにも？当のダイゴは今、レナと一緒にパトロールに出ている。
なので余計にホリイもそう言いたくなるのだろうとは思ったが、


「おいおい・・もういい加減にしろよ」
「そやかてシンジョウ、お前もおんなじ気持ちやろ？？」
「・・そりゃまあそうだけどよ・・何もそう何回も言わなくても・・」


あまりのしつこさにやや辟易して、俺はホリイを軽く睨む。
・・と・・・


「まあ、それだけ衝撃だったってことなんだから、少しぐらいは大目に見てあげたら。
私だって・・最初に気がついた時は、やっぱり同じように思ったものよ」
「・・・隊長っ！？」


・・・思いもかけない言葉を聞いて、今度は俺の方が驚く番だった。




「・・・じゃあ、隊長も以前からダイゴがティガだってことに気付いてたんですか！？
一体いつから・・」
「・・そうね。はっきりと確信が持てたのは、例の彼・・マサキケイゴが引き起こした事件の時からよ。でも・・・」
「・・そうなんじゃないかという予感は、対ガルラ戦の時に既にあった・・ですよね？
あの時隊長は、ダイゴの勘の良さに、かなりこだわってらっしゃいましたから・・」


突如割って入ったリーダーの問いに、隊長がにっこりと微笑んで言葉を返す。


「そのとおりよ。・・流石はリーダー、何もかもお見通しって訳ね」
「・・でないとＧＵＴＳの副隊長は務まりません」
「・・それもそうね（笑）で、そういう貴方自身はどうだったの？？」
「私は・・隊長のご様子から、あるいは・・と」
「あら、しっかり観察されてた、ってこと？」
「・・それも私の勤めだと思っていますから」


その絶妙な距離感の上に成り立つ会話は、いつもなら感心して聞き惚れてしまうところだったが、今の俺に限って言えば、そんなことはどうでもよかった。
何故なら・・・


「・・リーダーまで知ってたっていうんですか・・！？」
「あ〜あ・・おいシンジョウ、結局最後まで何も気付かんかったんは、俺等とヤズミだけだったっちゅうこっちゃな・・」
「・・ああ・・・そうだな・・・」


その事実が、酷く俺の心を打ちのめしたからだ。
・・だが。


「・・それはちょっと違うと思います・・！！」
「おいおいヤズミくん、いきなりどないしたん？？」


ムキになったヤズミが、いきなり大声で反論したので、ホリイが目を丸くして聞き返す。
すると、待ってましたと言わんばかりに、ヤツが滔滔と説明をはじめたのだ。


「ホリイさんとボクは、気付かなかったんじゃなくて、「気付けなかった」んです。つまり、お互いに自分の持っている知識が邪魔をして、無意識のうちにニュートラルな見方を拒否してしまっていたんですよね。
ホリイさんの場合は科学者としての専門性、そしてボクの場合はデータ分析から得られる結果に頼りすぎていて、それで真実が見抜けなかったんです。だから・・・」
「おいヤズミ、お前一体何が言いたいんだよ・・・」
「だからその・・・単に気付かなかったシンジョウさんとは・・根本的に違うって・・」
「・・いい加減にしろっっ！！」


頭の中でぶちっと何かが切れた音がして、咄嗟に俺は大声で怒鳴っていた。


「じゃ何か？？お前は自分達は頭が良すぎたせいで、ダイゴがティガだと気付けなかったんだから、そんなこと考えもしなかった単純な俺とは、一緒にしないで欲しいとでも言うのかよっ！！」
「そっ・・そこまではっきりとは言ってませんよっ・・でもっ・・」
「でも何だよ！？」
「シンジョウさん、あれだけダイゴさんと一緒に出撃してたのに、全然気がつかなかったなんて・・その・・いくら何でもニブすぎなんじゃないかって・・・」
「・・・！！」
「っ・・あのっ・・シンジョウさん・・・？？」
「俺だってなぁ・・俺だって気付いてやりたかったんだよ！！だけど気付かなかったんだから・・どうしようもないだろがっっ！！」


言い捨ててそのまま司令室を出る。
我ながら大人げないとは思ったが、あのままあの場に居続けることはどうしてもできなかった。
そのまま展望室へと足を向けると、高ぶった感情を少しでも落ち着かせようと、いつかのレナがそうしていたみたいに手すりにもたれ、眼下に広がる海にとりあえず視線を落とす。柔らかな風が水面（みなも）を吹き渡り、無数のさざ波が日暮れ間近の陽光を反射してキラキラと光り輝く様は、今この地球が平和であることの、象徴そのものででもあるかのようだった。
しかしほんの半月前、底知れぬ恐怖を伴って、滅びの闇があの水平線の向こうから忍びより、やがてこの基地全体をすっぽりと覆い尽くしてしまったのだ。もっとも俺はその話を後から聞いたのだが。
そしてダイゴはティガになり、邪神との凄絶な戦いの末、一度は敗れて石像の中に閉じこめられていたという。その上俺達の決死の救出作戦も空しく失敗に終わり−この時キリノと名乗る青年が、ティガはダイゴだと教えてくれたのだ−もはやこれまでなのかと思われたその時、あの奇跡とも呼べる出来事が起きて、俺達は今もこうやって生きていられるのだった。


それにしても・・


闇との戦いを反芻するにつれ、自ずと思考はそれまでの怪獣達とティガとの戦いへと遡っていく。


それにしても・・あいつはずっと独りで戦ってきたんだよなぁ・・・
それなのに俺は、そんなこととも知らずに、いつもティガが来てくれると単純に喜んで・・・


そうだった・・さっきのやり場のない怒り・・あれはダイゴがティガだと気付かなかったのがショックだったからじゃない・・
ダイゴがティガだと知らずに、ずっとティガに頼ってばっかりだった自分に対して、どうしようもなく腹が立ってたんだ。
何故なら、俺はダイゴ自身にも・・・


「・・シンジョウさん？？」
「ダ・ダイゴっ・・！？」
「どうしちゃったんですか？？真剣に考え込んじゃって・・・」


背後から掛けられた声にはっとして振り返ると、そこにいたのはまぎれもなくダイゴだった。
ヤツを巡るとりとめもない思考の真っ最中だった俺は、思いもよらない本人出現に心底狼狽え、


「お前っ・・・どうしてこんなとこにいるんだよっ・・！？」


気がついた時にはそう口にしてしまった後だった。
しかも、


「・・すみません・・なんか邪魔しちゃったみたいで・・・」
「・・い・いや・・そうじゃない・・・そうじゃないんだ・・・」


案の定、咎めるような口調になっていたらしく、それを察して素直に謝るダイゴを目にして、余計に自己嫌悪が募る。


「その・・今までずっとお前のことを考えていたもんだから、驚いてつい・・」
「え？？僕の？？」
「あ・・変な意味じゃなくてその・・お前がティガだった、ってことをよ・・」
「・・・・・」
「お前は独りで孤独な戦いを続けてたっていうのに、俺は何も知らずにそんなお前に頼ってばっかりだった、っていうのが悔しくてさぁ・・」


殊更自嘲したつもりはなかったが、結果的にはそうなってしまい、自分で自分が情けなくなって、言いながら不自然な笑いが漏れた。


「・・ただでさえダイゴ、お前自身にも随分助けられてたっていうのに、その上ティガにまでってのがなぁ・・堪らなくやり切れねぇんだよ・・・」
「・・僕自身に・・助けられたって・・？？」
「ああ・・俺だけじゃないぜ？ホリイだって隊長だって・・あ・・レナは言うまでもないのは分かるな？？・・とにかく俺達全員が、お前の持ってる優しさとか・・思いやりとか・・ちっ、何か上手く言えねぇけどよ・・とにかくそういうモンにどれだけ救われてきたか・・・お前は気がついてないかも知れないけど・・・」


柄じゃない、っていうのは自分でも分かっていた。けれど、今ここで言っておかないと、この先ずっと後悔し続けるような気がして、俺は自身の心が命ずるままに言葉を紡ぐ。
と、それまで俺を見上げていたダイゴがふっと視線を逸らし・・一瞬の後に再びこちらを見つめてきた。
その瞳は今まで見たこともないぐらいに柔らかな表情をたたえていて、俺は我知らずそれに魅入ってしまう。
するとその時、その穏やかさをそのまま写し取ったような口調で、ダイゴが話し始めたのだ。


「それを言うなら僕だって同じです・・僕だって、隊長の冷静さやリーダーの行動力、ホリイさんの前向きさやヤズミの無邪気さに、どれだけ助けられてきたか。そして何よりもシンジョウさんの迷いのなさにも」
「俺の・・迷いのなさ？？」
「ええ・・シンジョウさんも知ってると思いますけど、ティガになって・・色々と悩んだりすることもありましたから・・
そんな時、シンジョウさんが・・迷わず真っ直ぐに自分の信念を貫くのを見てると、ああ・・僕もこれでいいんだな、って・・そう思えて・・・」
「・・・そういうモン・・なのか？？」
「そういうモン・・です」


言い終わったダイゴが、ちょっと照れたような笑いを向ける。
今まで散々ホリイに単純呼ばわりされてきたせいで、話を聞いている最中すら、どうしても懐疑的になってしまう自分が恨めしかったが、それでもヤツのその笑顔を見た途端、全てを納得してしまえるのが自分でも不思議だった。
（・・だからこそ単純だと言われるのかも知れないが・・）


「それに・・・」
「え・・！？」


ダイゴが再び話し出したので、俺は慌てて意識を戻す。


「それに・・確かに自分がティガであることに対する悩みも葛藤もあったし、そういう意味では孤独だったのかも知れないですけど・・でも・・・」
「でも・・？？」
「シンジョウさんだって一緒に戦ってくれてたじゃないですか、いつも。
ＧＵＴＳが何のためにあるのか、僕たちが今まで何をやってきたか・・シンジョウさんだって分かっている筈でしょ・・！？」
「・・ダイゴ・・・」


思いがけずきっぱりと言われて、俺は咄嗟には返す言葉が思いつかず、暫くしてからようやく頭に浮かんだ問いを投げかけた。


「けど・・それだけで十分だったって・・本当にお前は言えるのか？？
ティガであるお前には何もしてやれなかった俺・・いや俺達に対して・・・」


しかしそれに対する返事はなく、ダイゴは俺から視線を外して小さく溜息をつく。
そしてまるで自分に言い聞かせているかのような口ぶりで、ゆっくりと話し始めた。


「・・ティガになってジョバリエと戦っている時に・・不意に・・僕は今何故戦っているんだろう、って思ったんです。いや・・今だけじゃなくそれまでも・・そしてこれからも・・怪獣達が現れる限り戦い続けるのは何故なんだろう、って。
そしたら・・ふっと心に浮かんだんですよ・・。レナや隊長、リーダー・・そしてもちろんシンジョウさんも・・そう、僕にとって大切な・・ＧＵＴＳのみんなの顔が次々に。
その時に、ああ・・これが答えなんだな、って。少なくとも今の僕は、この人達がいるから戦い続けていられるんだ、って・・そう思ったんです。
・・・これで答には・・・なってないですか・・・？？」


問いかけるダイゴの瞳はさっきと同じように柔らかで、それを見つめ返しているうちに、今さっきヤツの発した言葉が、俺の身体の隅々まで染み渡っていくのが自分でも分かった。


「・・・いや・・・もういい・・十分過ぎるほどだよ・・・
ありがとな、ダイゴ・・・」
「・・僕の方こそ・・・」


ダイゴがもう一度あの笑顔になる。
その顔を見た途端、込み上げてくる熱い思いに胸を突かれ、俺はもう何も言えずに、後はひたすら、それを身体の奥深く押し戻すことに専念した。
何故って・・それは偏に、ここで涙を見せるのはあまりに気恥ずかしかったからで・・・その甲斐あって、俺はついにその意地？を貫き通すことに成功する。
やっと周囲の状況に目が行くようになって辺りを見回すと、既に日は落ちて、残照が波間を赤く照らし出していた。


「・・・長居しちまったな・・・」
「そろそろ帰りますか？？」
「・・ああ・・・」


ダイゴの言葉に頷いて踵を返しかけた俺は、ふと気になってヤツに視線を向ける。


「・・そう言えば・・お前、どうしてここに来たんだよ？？」
「ホリイさんが・・シンジョウさんが海を見ながら黄昏れてるだろうから・・行って慰めてやってくれって・・・」
「なにっっ！？」


思わず素っ頓狂な声を上げた俺を見て、ダイゴがさも可笑しそうに笑った。


「結構心配してましたよ、ヤズミも・・」
「・・・あいつ・・・散々好き勝手言いやがって・・・」


仏頂面でそう呟きながらも、その実俺の心はすっかり晴れていた。
ダイゴがティガとして戦っていたこと・・確かにそれには気がついてやれなかったが、それでもなお、こいつにとって俺は・・必要な存在であり続けることができたんだと・・それをダイゴ自身の言葉で、はっきりと聞くことができたから。
・・・単なる自己満足に過ぎないのかも知れなかったが、俺にとってはそれで十分だった。


「戻ったらまた一仕事ですね」
「・・デスクワークは苦手だからな、お互い」


言ってからダイゴと顔を見合わせて笑い合う。
後暫くはまだまだ忙しい日々になるのだろう。
それが少しでも長く続けばいいと・・そう願う心を自覚しながら・・・あえてその意味を問うことはせずに、俺は司令室へと急いだのだった。







Ｅｎｄ






後書き(^◇^;)

・・・いやもう・・・今回は何の言い訳もいたしません・・ていうかできまへん・・(;^_^A アセアセ…
ＧＵＴＳメンバーの中で、純粋にティガ＝ダイゴだと全く思ってなかったのはシンジョウだけやろな・・・それでショック受けてるとこ想像すると萌えるがな（オイオイ・・）っていうのから、ならそのシーンをちょいと具体的に書いてみようと思ったのが運の尽き
いつもながら行き当たりばったりなので仕方ないとはいえ、気がつくとこないな話に・・・(^◇^;)
毎度ワンパターンなシチュで、中途半端に甘っちょろくて（緩（ぬる）いとも言う・・）クサいというf(^ー^;
ま、所詮はσ(o^_^o)の書くもんなんでこの程度っす・・・それに何のかんの言いつつ、実は結構気に入ってたりするし（爆）（←完璧開き直りっっ(^◇^;)）

でもって、何やら微妙なラストは・・・やっぱアレ・・のせい？？かも・・・（謎）
・・・という訳で、もしかしたらそのうち、表だっては置けないページがひっそりと出現するやも知れません（爆）
まあその時はそれ・・ということでf(^ー^;
そうそう・・・シンジョウとホリイのダイゴ＝ティガ観については、電撃特撮通信　Ｖｏｌ．２の影丸さんインタビューに依ってます
でもって、シンジョウが「ティガに頼ってた」と言うのは、あくまでも彼の主観です（笑）
客観的に見たら、ＧＵＴＳは、歴代防衛隊の中でも、１、２を争う「役立ってた」チームなんで(^^ゞ
あ・・あと、ダイゴがレナについてだけ言及してないのは、言うまでもなくその存在全てに助けられたから、です(^^ゞ


・・・・ともあれ・・・読んでいただいてどうもありがとうでした(^_-)-☆
（２０１２．８．２６　ＵＰ）


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