光と人の狭間で それはダイゴにとっては思いもよらない衝撃だった。 対怪獣災害のエキスパートとして共に闘い、それぞれに並々ならぬ技量と、それに見合うだけの精神力とを持つと信じてきたＧＵＴＳの仲間達・・その彼らが、今やギジェラのもたらした快楽の虜に成り果てて、先程からの自分の説得にもほとんど耳を貸そうとせず、ただ徒に時間ばかりが過ぎていく。 その事実は次第に彼を苛立たせ、精神的に追い詰めていった。 そして・・・ 「だいたいさぁ・・あれを体験してないお前に、そんな優等生的発言をされても、いまいちピンと来ないんだよなぁ・・・」 やや皮肉混じりなシンジョウのぼやきを聞いた瞬間、ついにダイゴの中で何かが弾けた。 「・・分かりました。なら僕１人で何とかします！！」 流石に怒声とまではいかなかったが、普段の彼からはおよそ想像もつかない硬い声でそう言うと、カタンと音がするほど荒々しくイスから立ち上がり、そのまま司令室を後にする。 口々に自分を呼ぶ声は聞こえたが、誰１人追ってくる者はいなかった・・筈だった。 が、通路内をかなり進んだところで背後から呼び止められ、驚いてその場で振り返る。 そこに立っていたのはやはりイルマだった。 恐らくダイゴが出て行って暫くしてから、慌てて追ってきたのだろう。そのよく手入れされた長い髪に、少しだけ乱れた箇所がある。 そしてその瞳には、普段からは想像もつかぬ程に苦渋の色が浮かんでいた。 「隊長・・どうしてここへ・・・？？」 それでも微かな期待を込めてダイゴが呼びかける。 だが彼女は、明らかに悲痛な口ぶりで話し始めた。 「・・ダイゴ隊員、他のみんなも・・貴方の言っていることを頭の中ではとても良く理解しているのよ。でもね・・」 そこでいったん言葉を切り、ふっと視線を彷徨わせる。 「でも、私達は貴方とは違うから・・・なかなか決断ができないの」 ・・無論イルマに他意のあろう筈がない。 それどころか、それは彼がティガであるということに、つい最近気付いたらしい彼女だからこその、不甲斐ない自分達を許して欲しいという、心からの謝罪だと言っても過言ではない。 しかしその言葉は、今のダイゴの心に、何故か耐え難いほどの鋭い痛みをもたらした。 「もういいんです・・・・・どうかこれ以上僕にはかまわないでください！！」 考えるより先に叫びが喉を突いて出る。 「僕は・・僕は・・・」 しかしそこから後は言葉にすることができず、ダイゴは何度も目を瞬かせて、視界がぼやけそうになるのを必死で防いだ。 そして、 「・・・それでも僕は・・・人としてやるべきことをやるだけですから・・・」 やっとの思いでそう言うと、そのまま敬愛するその人にきっぱりと背を向けて、決して振り返ることなく走り去っていく。 後には、彼の名を呼び続けるイルマの姿だけが残されていた・・・ ━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━ メトロポリスの状況は想像以上に酷く、人々がギジェラを求めて口々に言い争い、狂乱する様を目の当たりにして、ダイゴはまさに暗澹たる思いだった。 しかしその様子を見て回るにつれて、今回の事件が起こって以来、あえてずっと目を背けようとしていた１つの問いが、嫌でも意識の表層へと浮かび上がってくる。 ・・・俺は・・俺は一体何なんだっ・・・！！ 思えば、ティガとなってからずっと、ダイゴの行動基準は、「人としてできることをする」だった。 それは、図らずも強大な力を手にしてしまったとはいえ、あくまでも自分自身は普通の人間なんだという、彼の自意識の現れでもあったし、事実、つい先だってのマサキケイゴの事件のときも、自分は神にも等しいと豪語する彼に、そうやって対峙し、辛くも勝利したばかりだったのだが。 ・・・でも、私達は貴方とは違うから・・・なかなか決断ができないの さっきイルマに言われた言葉が、再度の痛みを伴ってダイゴの脳裏に響き、 ・・かわいそう・・・ダイゴも夢の世界に行けばいいのに・・・ 無邪気なテラの声がそれにオーバーラップする。 そう・・いくら自分の中では「人として」行動していても、他の人間から見れば、ティガであるということはやはり特別な存在だったのだ。 今回の出来事ほど、そのことを強烈に思い知らされたことはなかった。 全世界の人類がギジェラの夢に溺れる中、ただ１人正気を保っている自分・・ そしてテラは、そんな自分のことを、特別な存在であるが故に「可哀想」だと言う。 ・・最初はそんなバカな話はないと思っていたが、今このメトロポリス内に身を置いていると、ひょっとしたらテラの言葉の方が真実なのではないか・・という気がしてくるのだ。 いや・・それどころか・・「人であること」が、「ギジェラのもたらす快楽から逃れられない」ということと同義であるなら、みんなと同じに夢の世界に行けない自分は、もはや人とは呼べない存在になってしまったのではなかろうかという不安すら・・・ けれどそれでもなお「人として」やるべきことはやらなければならないというこの矛盾。 自分がティガとなってからずっと、時に戸惑い、時に悩みながらも、ダイゴはそのことを常に肯定的に捉えようとしてきた。 しかし今、この世界に依るべきものは自分だけという絶望的な状況の中で、様々な不安や疑念が次々に彼を襲い、その心を苛み続ける。 そして・・ ・・「光でもあり人でもある」って・・結局は「純粋な光でもなければ人そのものでもない」・・酷く中途半端な存在にすぎないのかも知れないな・・ 思わず自嘲気味に呟いたダイゴの胸に、それでもこの地球の運命は、そんな不確かな存在である自分ただ１人の選択にかかっているのだ・・という事実が、重く重くのしかかる。 「なんで僕だけが・・！！みんな・・みんなずるいよっっ・・・僕だけに全てを押しつけて・・！！」 ・・・声を押し殺した叫びを上げ、自身の態度を決めあぐねて、ダイゴはメトロポリス内をただひたすらあてもなく彷徨い続けた。 どのくらいの時が経ったのだろうか。 ・・いや、実際にはそこまで長くはなかったのかも知れない。 しかし彼にとっては永遠とも思える時間の中で、数え切れないほどの自問自答を繰り返し、ようやくダイゴは一つの結論に辿り着く。 例え自分がどのような存在であろうとも、最終的に頼れるものは、己自身の心でしかないのだと。 それだけが、今この時この状況の中で、たった１つ確実なものとして存在しているのだと。 ・・ならばその・・心は・・・ 気を落ち着けて雑念を排し、再度真剣に向き合えば、これまでの戦いの記憶が次々に蘇り、それを通して理解できたことや得たものの全てが浮かんでくる。 ・・そして今の自分にとっては、かけがえのないＧＵＴＳの仲間達と共に、自らの手で次の時代を作っていくことが何よりも大切なのだという強い思いもまた・・・ ・・その瞬間。 ダイゴ・・お前の正しいと思ったことをやれ・・！！ 彼は心の中でそう叫ぶと、もはや躊躇うことなくスパークレンスをその手に掲げたのだった。 ・・それは本当に苦しい戦いだった。 しかしその最中、ダイゴは人々が自分に声援を送り始めたのに気付く。 そして何よりも、当初遠巻きにして眺めているだけだったＧＷ２号が、一転して自分の援護を開始し、共に戦ってくれたことが嬉しかった・・・ ━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━−━ 「あ〜・・何かこう・・妙にすっきりしちゃってさあ、今思うと何でギジェラなんかに取り付かれたのか分かんねぇよなぁ・・」 「やかましわアホ！！・・お前一番ノっとったくせに！！」 基地に帰っての事後ミーティングの折、例によって繰り広げられるホリイとシンジョウの掛け合いに、その場の雰囲気が一気に和む。 と・・ 「それにしてもティガも、全人類を敵に回したかも知れないのに、随分と思い切った荒療治をしたものよね」 「・・いや・・・結局選んだのは・・・人間ですよね」 イルマがさも感慨深そうに言ったので、思わずダイゴは後を続けた。 それは彼にとって、あの時自分に声援を送ってくれた人達と、何よりここにいる仲間達に向けた言葉でもあったのだが。 「そうね、ギジェラと戦ってくれたのはティガだけど、その元になったのは、結局は人の心、ってことなのよね」 イルマはそう告げて、ダイゴに視線を合わせると、一瞬目を伏せ・・そしてもう一度しっかりと彼を見つめてにっこりと微笑んだ。 ・・・隊長・・・ その言外の感謝の念に、ダイゴの心のしこりが跡形もなく溶けていく。 確かにもう単なる人には戻れないのかも知れないけれど、これからも自分自身を信じて、自分のやれることをやっていこうと・・そうすることこそがティガである自分の存在意義に繋がるのだと・・ダイゴは今改めてそう思い、軽く頷いて彼女に微笑みを返したのだった。 その後は各種連絡事項伝達ということで、とりあえず今からまる２４時間は休暇扱いと決まり、「このまま何も起こらないことをみんなで祈りましょう（笑）」というイルマの言葉を最後にミーティングは終了した。 そして各々のプライベートルームに帰る途中のこと。 「おいダイゴ、ちょっと・・」 呼び止められて声のした方を向くと、そこには少しバツの悪そうな顔をしたシンジョウが立っていた。 「何ですか？シンジョウさん？？」 「いやな・・昨夜はあんなこと言っちゃって悪かったな、と思って。お前あれからずっとメトロポリスでみんなを説得してたんだろ・・？？」 「ああ・・そんなことなら・・・」 もういいんですよ、とダイゴは笑って、ふと思い出したように続ける。 「・・それより、さっきホリイさんに聞いたんですけど、最初にティガを援護するきっかけを作ってくれたのって、シンジョウさんなんですよね？？」 ・・あいつがなぁ、「・・俺も苦しむぞ・・ティガを助けてみんなで次の時代に行こう！！」て・・何や柄にもないことを言いよったんや 言葉とは裏腹に、かなり嬉しそうな口調でホリイがそう告げた時、ダイゴは心底感激したものだった。 だから今も、彼に話しかけながら、心の中で秘かに「ありがとうシンジョウさん」と呟いたのだが・・ いやあれはお前・・と、案の定シンジョウは照れまくったものの、やがてダイゴに視線を合わせると、満面の笑顔になる。 そして・・ 「あれは・・元はと言えばダイゴ、お前のおかげなんだぜ？？」 「え！？俺の？？」 「ほら、以前２号機墜として修理してた時、お前言ったじゃないか。「ティガも色々と悩んだり考えたりして闘ってるんじゃないか」って。 ギジェラと闘ってるティガを見た時、お前のあの言葉を思い出してな。 ・・ダイゴ、あれはお前の勘なんかじゃない、確かに俺の目にもあの時そう映ったんだ・・・だから俺は、なら俺達も一緒に悩んでみよう、って・・・悩んで苦しんで、次の時代に行こう、って・・そう決心したんだよ。 ・・何てったってよ、ティガは・・今までずっと、俺達と一緒に闘ってきた仲間だもんな」 「・・・シンジョウさん・・・」 胸の奥から熱い塊が込み上げてくる。 それを押し戻そうとする必死の努力も空しく、鼻の奥がツンとしたかと思うと、溢れ出す涙を自覚してダイゴは慌てた。 ・・・が、 「あ・・お・俺っ・・・何か悪いこと言ったか！？」 そんな自分以上に慌てふためいたシンジョウがおろおろするのが可笑しくて、今度は思わず笑ってしまう。 「な・何だよお前〜、泣いたり笑ったり・・さっきからちょっと変だぞ！？」 「あ・・すみませんシンジョウさん」 ダイゴはてへっと笑って、とりあえず手の甲で涙を拭くと、人がこんなに心配してるのによ、と、少しだけムッとしたらしい彼に一応謝る。 「泣いたのは・・ちょっと目にゴミが入っただけです（笑） それより・・こうやって、いつも通りの朝が迎えられて本当に良かったですよね」 「・・おう、そりゃ〜そうだけどよ・・」 何となく納得がいかない・・という風なシンジョウだったが、そう言ったダイゴの顔があまりにも嬉しそうなので、まぁいいか・・と思い直した。 そう、ダイゴは今、心底晴れ晴れとした気持ちになっている。 ティガを仲間だと言い切り、そのティガが苦しんでいるなら、自分も同じように苦しんでみようと言ってくれた存在・・そしてその彼が、同じＧＵＴＳのメンバーとして、人としての自分と共に戦っているという事実・・その前では、自分が何者であるかなんてことは、そもそもどうでもいいことに違いないし、悩み苦しんだ戦いの記憶すらも、案外あっさりと乗り越えられそうな気がするぐらいだった。 ありがとうございますシンジョウさん ダイゴはもう一度心の中でそう呟くと、挨拶を交わしてシンジョウと別れて自室へと急ぐ。 この後の眠りは、きっと夢見も良いに違いない。 そんな予感に胸を躍らせながら。 Ｅｎｄ 後書き(^◇^;) ・・・というか、盛大な言い訳・・(;^_^A アセアセ… まず最初に・・ダイゴファンの皆さまへ→「泣かせちゃってすみません・・(^◇^;)」・・しかもあんなシチュで・・って、書いた本人はめちゃ満足してたりするんですが（←余計に悪いか・・・(;^_^A アセアセ…） でもってレナファンの皆さまへ→「全く出てこなくてすみません・・(^◇^;)」・・いやも〜・・出しちゃうと完璧に収拾がつかなくなるんで（←隊長以上にダイゴの正体分かってる筈だし・・） ・・・ということでf(^ー^; そもそもはテラの言葉かな。それと、４３＆４４話ときて、今回に続くというもの凄い構成（笑） いや・・ある意味次の４６話込みでもの凄いんですが（笑）、それはちょっとこっちにおいヽ(^_^;)）といて（(^。^;)ノ・・ テラの言葉はもう、初見時からずっとひっかかってたし、構成にしてもそうなんですが、本当にティガは容赦がないなと思います（爆） 僕はあくまで普通の人間にしかすぎない、言うて辛くも勝利したと思ったら、今度は、ちゃうやん、あんた特別な存在やん・・可哀想に〜・・・ってどんなやねん、と(^◇^;) まぁそこがまた魅力の１つなんですが(*^。^*) で、本編のダイゴが、割と淡々と悟ってるっぽいキャラなんで、ならここでもちっと悩ませてみようと少々捏造してみた訳で・・・ んが・・ページの前置きにも書いてあるとおり、コンセプトが「墜落コンビに愛」（爆）なうえ、σ(o^_^o)はシンジョウファン以外の何者でもなく、しかも、人様のを拝読する分には何でもＯＫなんですが、自分が書くとなると絶対ハッピーエンドが好き（ＣＰ話なららぶらぶ好き（笑））という、どうしようもない嗜好の持ち主なんで、所詮はいつもの如くこんな結末っすf(^ー^; あと、本編シンジョウの「俺も苦しむぞ・・」のセリフの「も」は戦ってるティガを受けてのものだ、ってのがＭｙ解釈、プラス、シンジョウのセリフに出てくる２号修理話は、ここに置いてあるＳＳ「ＧＷ２号修理顛末記（笑）」から(^◇^;)、それと、シンジョウが、そらもう見事にダイゴ＝ティガなんてことは微塵も思ってない、というのは、電撃特撮通信　Ｖｏｌ．２の影丸さんインタビューに依ってます（←σ(o^_^o)自身もそうだと思いますが） う゛・・・シリアス書いたら書いたで、ホンマ言い訳長いわ自分・・・(;^_^A アセアセ… ・・・・ともあれ・・・読んでいただいてありがとうでした(^_-)-☆ （２０１２．７．８　ＵＰ） 戻る