とある日の朝。
いつもどおりサイトのご意見受付フォームから届いたメールをチェックしていた愛が、「あっ・・」と小さく声を上げる。


「ん？？どうした？ウイルスメールなのか？？」
「・・あ・・・いえ、そうじゃなくて・・・ちょっと・・・・」


すかさず聞きとがめた耕作だったが、返ってきたのは何とも歯切れの悪い言葉だった。


「・・・ちょっと？？」
「・・・何でもありません。あの・・・隊長宛のメールが１件来ているので転送しますね」
「ああ・・頼む」

「ま、愛のおかげでうちのセキュリティは完璧だから、ヤバいもんが届くワケはないんだよなぁ〜〜」
「・・・そのと〜り！まさに愛さまさまだぜ。な、拳？？」
「そうそう・・！」


事務的に答えた隼人から一呼吸遅れて、拳が対照的に殊更大仰な声を張り上げ、その彼にこれまた大袈裟に相槌を打ちながら、だからこそ、ならさっきの態度は何なんだよ、と耕作は思う。何故なら、発した言葉は少なくても、その中には明らかな動揺が含まれていたからだ。恐らくは拳も、同じ思いからあんな言い方をしたのに違いない。
・・・だが肝心の愛はだんまりを決め込んでしまい、執務室はそのまま静寂に包まれる。


「まっ、いっか〜・・・」


そう小さく独りごちて、耕作は手元の書類に目をやった。メールの件は、どうせすぐに隊長の方から話してくれるに決まっている。
そしてそんな耕作達の思惑を感じて苦笑いしつつも、とりあえず自身のディスプレイに目をやった隼人は、送られてきたメールの差出人を見て、思わずはっと息を呑んだ。
愛が驚いたのも無理はない・・・何故ならそこに記された名前は「Honda Yumiko」−すなわち、ほぼ一度も目覚めることなくその短い生涯を終えた少女、恵子の母親のものだったのである・・・。



今から約２ヶ月前に起こったその事件は、今でも隼人の中に暗い影を落としていた。
あの時、言いようのない怒りと悲しみ・・襲い来る無力感、それらの全てがない交ぜになり、胸中で嵐となって吹きすさぶ中、たまらず発した己の叫びに対する明確な答えすら、いまだ見つかっていないのだ。
・・・ましてやその当事者たる母親の気持ちはいかばかりか・・・恵子の葬儀では気丈に振る舞い、参列した自分達にも、お世話になりましたと頭を下げてくれたものの、やつれきったその姿から、内心の計り知れない悲嘆が手に取るように分かっただけに、それはなお一層のやり切れなさを、隼人の心にもたらすのだった。


意を決してメールを開く。
と、そこに綴られていたのは、思いがけず感謝の言葉だった。
隼人達のおかげで興味本位のマスコミに晒されることもなく（これは実際には本部長の差配によるものだったのだが）、無事に四十九日の法要を済ませることができたこと、その後ようやく、事件のことを少しずつ思い返すことができるようになってきたこと、
そして・・・



先日、あの子が夢に出てまいりました。そして笑顔で、「お母さん、今までどうもありがとう」と言ってくれたんです。
その瞬間、私は確信いたしました。ああ・・恵子はやっと救われたんだ、と。
隊長さんには随分ときついことも申し上げましたが、夢とはいえ、あの子の心からの笑顔が見られたのは、ひとえにあの時、貴方が必死で恵子を説得してくれたからだと思っています。
今となってはいくら感謝してもしきれません。
本当にどうもありがとうございました。

この気持ちをどうしてもお伝えしたく、今回メールさせていただいた次第です。
どうかお身体に気をつけて、仲間の方々と共に、これからもますますご活躍されんことを、陰ながらお祈りしております。
乱文にて失礼いたしました。

本田弓子



・・・夢で、か・・・

読み終えて、母親の心がかなり落ち着いてきていることに安堵を覚えながらも、しかし隼人の心は今ひとつ晴れなかった。
あの時自分達が見た恵子が父親に笑いかけていたように、夢に出てきた彼女も母親に笑いかけたのだろうか。
が、よしんばそのどちらの恵子も幻ではなく、母親が言うように、彼女の魂が本当に救われたのだとしても、それであの時感じた無力感が全て帳消しに出来るようなものでは到底ない。
・・・第一、自分は生きているうちに彼女を救うことができなかったではないか・・・そしてそれができなくて何のためのレスキューポリスと言えるのか・・・


と・・・


「！？お前たち・・・！？！？」


微かな気配を感じて咄嗟に振り返ったその直ぐ後ろに、バツの悪そうな顔をして突っ立つ２人の部下がいるのを見て、今までそれに気付かなかった自分の迂闊さに隼人は呆れ、次いで思わず苦笑いが漏れる。とはいえ、それはそれだけ隼人が自身の思考に集中していたことと、それ以上に、背後にいたのが凶悪犯ではなく耕作達だったから、という理由によるところが大きかったのだが。


「あっ・・・隊長っ・・・どうもっ・・・」
「いやぁ〜・・・もうそろそろかなぁ〜って思ってその・・・」
「・・・かまわないからここで見ろよ。転送するより早いだろ？」


慌てふためいて自分達でもよく分からない言い訳？をする２人が、このメールの内容を気にしているのは明らかなので、隼人はそのまま席を立つ。が、待ってましたとばかりにディスプレイを覗き込んだ２人の表情が瞬時に変わったのを、やはり見過ごすことはできなかった。


だが・・・


「そうか〜〜、恵子ちゃんが夢に出てきたんですねっ。良かったぁ〜〜・・・」
「・・・拳、隊長は・・・・」
「・・・流石は隊長、それって、ちゃんとお母さんの心も救ってあげていたってことじゃないですか。実は俺、ずっと心配してたんですよ。だから・・・ホント良かったっっ！」

「・・・え！？」


読み終わった途端、耕作にも口を挟ませる隙を与えないまま、拳は一気にそこまで言うと、満面の笑顔を隼人に向ける。
そしてそれを聞いた耕作もまた・・・


「そっか。確かにそのとおりだよな。おい拳、お前もたまにはいいこと言うじゃないか！」
「おいっ！「たまには」、って何だよ「たまには」ってっっ！！」
「いいから黙って聞けっての！！ねぇ隊長、俺たちの仕事って、悩んだりすることもいっぱいあるけど、それでも「ありがとう」って言ってくれる人がいる。だからこそ続けていける。そうですよね？？」
「あ゛っっ！！ずるいぞ耕作っっ！！それは俺のセリフだっつの！！」
「・・ふん、お前にばっかりいいカッコさせるワケにはいかないからなっ！」
「何をっっ・・！！」

「・・・拳、耕作・・・・・」


・・・・そうなのだ、たとえその過程で答えの出ない命題にぶつかったとしても、その先に人々の感謝の言葉がある限り、自分達は逡巡せずに職務を全うしなければならない・・・いや、むしろ進んで職務にその身を投じることができる。
・・・人を救う＝レスキューとは、そもそもそういうものではなかったのか・・・・・


「・・・・拳、耕作、ありがとう・・・」


隊長である自分の迷いも悩みも全て分かった上で、だからこそ共に手を携えて未来に向かって行こうと告げる頼もしい部下達の存在に、隼人は持てるありったけの想いを込めて感謝の言葉を紡ぐ。
そして・・・


「いゃあ〜・・・俺当たり前のこと言っただけだし・・・礼なんて言われる筋合いはないっすよ！！」
「だぁかぁらぁ・・それは俺のセリフだって！！」
「へっ！ざまぁみろ〜・・・！！」
「耕作っっ！！」


・・・相変わらずのやりとりに微笑みながら、隼人はいつの間にか自分の心が随分と軽くなっているのに気がつき・・・

・・・ありがとう２人とも・・・

もう一度心の中でそう呟いたのだった。


Ｅｎｄ






後書きっつ〜か言い訳っつ〜か・・(^◇^;)

・・・大まかなネタはもう随分前からできてたんですよね〜・・・(^^ゞ
ただ春先からずっと、なんやかやで忙しくて・・・(;^_^A アセアセ…
そうこうしているうちに、とうとうつべの公式配信が始まってしまい、とにかく感想を書かねばっっ！！と焦っていた今朝のこと、不意に何かが降りてきまして・・・（笑）
ま、それでこれ？？っつ〜のは毎度のことなんで置いとくとしてf(^ー^;、話が甘いわっっ！！と仰る向きも多々あるでしょうが、もともとこの４６話の解釈としては、「隼人は最後に恵子ちゃんの心を救うことができたと思う」派なんで、その気持ちを更に発展させて（笑）書いてみた次第っす
・・・ていうか、早い話が、耕作救済話な４５話ＳＳに対して、こちらは隊長救済話ってだけなんですが(^◇^;)、それでも一応何やかやの想いは込めてみたつもりっす(^^ゞ

・・・ということで、感想書く前に補完SSをＵＰするのは邪道かな？とも思いつつ、とりあえず出来上がったっぽいんで載せることにします(;^_^A アセアセ…

ではでは、読んでいただいてどうもありがとうでした(^_-)-☆


２０１３．６．２０ＵＰ