「耕作・・大丈夫かなぁ・・」
「ん？耕作がどうしたって？？」
「え！？あ、隊長？？・・俺・・・」


どうやら無意識のうちに口に出していたらしく、ここ最近における一番の心配事を聞きとがめられたと悟った拳は、少々バツの悪そうな顔をしつつ隼人の方に向き直った。
その日は珍しく事件もなく、本部長は愛を伴って会議に出席、そして話題の主である耕作は非番だったので、今執務室内にはこの２人しか残っていない。


「心配なんですよ・・あいつ、原田さんのことがあってから、時々じっと何かを考え込んでるみたいだし・・よっぽどショックだったんじゃないかって・・・」


隊長に余計な心配をかけまいと思っていただけで、別に隠しておくつもりはなかったので、いったん知られてしまった今となっては、反対に自分の不安を共有してもらえる安心感の方が大きくて、拳は躊躇うことなく・・いやむしろやや饒舌とも言えるほどにすらすらと、その心に仕舞っていた思いを話し出した。


「隊長も言ってたでしょ？原田さんは耕作の親代わりみたいなものだった、って。その人がずっと自分の父親を憎んでただなんて・・憎んだままずっと自分に接し続けていただなんて・・そんなショックなことってありますか！？
だから俺、そのせいで耕作がどうにかなっちゃうんじゃないかと思って心配で・・・
あいつ・・只でさえ両親を早くに亡くして辛かっただろうに、その上親代わりに頼ってた人にまで裏切られるなんて・・なんで・・なんであいつばっかそんな目に遭わなきゃいけないのかって考えてたら・・なんか本当に悔しくてたまんないんですよっっ・・！！」


耕作の心配だけでは終わらず、ついにはそんな彼に対する自分の心情までをも無意識のうちに吐露しつつ、拳は縋るような瞳を隼人に向ける。
だが、そんな彼の苦悩を受け止める隼人の瞳は、反対にあくまでも穏やかなままだった。
そして・・・


「耕作も幸せ者だな。こんなに自分のことを思ってくれる仲間がいてさ」
「隊長っ・・！！」


聞きようによっては揶揄ともとられかねない返答とともに、隼人は拳にとっておきの笑顔を返す。
そして当然ながらその真意を測りかね、ムッとした表情を隠すのも忘れて自分にくってかかった彼を、予想どおりだとばかりに柔らかく受け流した。


「・・まぁ落ち着け拳、お前の言いたいことは良く分かる。でもな、そう心配することはないと俺は思ってるんだ」
「・・どうしてっ・・！？」
「耕作自身がそう言ったからさ」
「・・え？？」


意味が分からないとばかりに投げかけられた短い問いに、隼人は更に言葉を重ねる。


「お前もさっき言っただろう？俺が、原田さんは親代わりみたいなもんだな、って耕作に言ったって。その時あいつはどう答えたか覚えてるか？」
「・・それは・・・確か・・あの人には随分と世話になった、って」
「・・・ほら、だからだよ」
「・・・・？？」
「お前は原田さんがずっと父親への憎しみを抱いたまま耕作に接してきたって言ったけど、俺はそうは思わないんだ。だって、あの時のあいつは本当に彼に感謝してただろう？
・・耕作だってバカじゃない、いやむしろ、両親がいない分、他人の心には敏感な筈だと思うんだ。もし原田さんが、常に耕作の父親を憎んでたんだとしたら、当然耕作のことだって憎かった筈だ。・・だったら、耕作が、自分に向けられた憎悪の感情に気付かない筈はないんじゃないか？？」
「でも・・それだけ原田さんが巧妙に隠してた、ってことも・・」
「・・そうだな、もしかしたらお前の言うこともありかもしれない。でもな、拳・・俺は、原田さんはきっと「魔が差した」んだと思うんだよ」
「魔が差す・・・」
「・・人の心はそんなに単純なものじゃない。どんなに親しい友達でも、何かの時に、ふっと羨ましく思ったりすることってあるだろう？ましてや友人でもあり、ライバルでもある、なんて場合は尚更なんじゃないか？同じ競技で頂点を目指す者同士、常に切磋琢磨しながらも、時には相手に対する嫉妬に苛まれることもある・・むしろ、人としてそれが当然だと俺は思う。そして原田さんはそんな嫉妬から魔が差して取り返しのつかない身体になってしまった。・・でもそれは自分のせいだ、それは彼にもよく分かってたんだよ。だからこそ、死んだ友人の忘れ形見である耕作に自分の分も託して、父親以上の射撃の名手に育て上げようとしたんだと思う。・・けど、いざそうなってあいつが自分の元を離れてしまうと・・今度は俺の今までの人生は何だったんだという後悔の念が、一気に原田さんに押し寄せたとしても不思議じゃない・・」
「・・・・・」
「そしていったん負の感情に囚われてしまうと、どうにもそこから抜け出せなくなって・・そんな時原田さんの心に、ふともう一度魔が差したんだろうな・・自分がそうある筈だった理想を体現した耕作が憎い、って。・・自分が育てたという思いがあるだけに尚更・・」
「・・そんな・・でもそれってあんまりじゃないですか・・！！それじゃ耕作が・・」


どちらにしても彼が傷つくことに変わりはないじゃないか、との思いが先走り、咄嗟に悲痛な声を上げた拳を、穏やかな微笑みと共に隼人が遮った。


「いや・・きっと耕作は、そんな原田さんの心の闇も、全部分かってるんじゃないかと思うんだ。分かった上で、自分の手で更生させてみせると言い切ったんだよ・・。
そしてそれは、自分を指導してくれていた時の原田さんが、本来の彼だと信じているからこそだと俺は思う。
違うか？？拳・・」
「・・・・・」
「誰にでも心の闇はある、それを自覚したうえで、それでもなお、人の心の持つ光を信じて事に当たる・・それこそが俺達の仕事の基本だろ・・？？」
「・・・隊長・・・」


そう言い切った隼人の瞳には一片の曇りもなく、それはそのまま彼の真意が言葉どおりのものであることを・・その心に何の迷いもないことを如実に示していた。
そしてその瞳を見つめるうちに、自分の抱いていた悲しみと不安が徐々に・・しかし確実に和らいでいくのを拳は自覚し、やがて彼は晴れ晴れとした笑顔を上司に向ける。


「分かりました隊長・・俺、ちょっと取り越し苦労してたかも知れません。
・・あ・・でも・・なら耕作の奴、何をあんなに考え込んでるんだろう・・・」


だが、それで最近の耕作の様子に説明がついた訳ではなく、せっかく勢いよく放たれた言葉が、再び戸惑いの内に消えていくのを見て、隼人は笑いながら言葉を返した。


「気になるんなら直接本人に聞いてみることだな、拳」
「そんなこと・・・」


してもいいんだろうか？？と言外に問いかけるその瞳に苦笑しつつ、即座に隼人が殺し文句を告げる。


「おいおい・・・俺達の絆は、そんなことで揺らぐようなものじゃないだろう？？」
「・・っ！？・・もちろんですっ・・！！」


今度こそ明らかに揶揄だと分かるその口調にまんまと釣られて、拳は思わずムキになると、勢いよくそう答えたのだった。






「そうか・・隊長がそんなことを・・・」
「で、本当のところはどうなんだよ？？」
「・・ったく、あの人は、どうしてこう何もかもお見通しなんだ、ってとこかな・・」


やれやれと溜息をついて肩をすくめつつ、半ば呆れ顔で耕作が言葉を返す。
しかしその実彼がそのことに対してかなりの嬉しさを感じているのを見て取って、拳は心の中で安堵しながら笑顔で言い返した。


「何だよ、それじゃあやっぱり隊長の言ったとおり、ってか。ったく・・せっかく人が心配してやったっていうのに・・ホント損したぜ」
「何をっ！？」
「まぁまぁ・・そんなことで怒んないの（笑）でもさ、ならお前、なんでこの前からあんなに考え込んでばっかなんだよ・・？？」
「それは・・・」


今までの流れを壊さないように、さり気なく本題に入る。
そしてそんな拳を見て、他人には気付かれていないと思っていた自分の認識の甘さに苦笑いしつつ、そしてそれ以上に、そこまで己のことを気に掛けてくれる彼の気遣いに感謝しながら、耕作が話し出した。


「それは・・もっと早い段階で俺が原田さんの葛藤に気付くことが出来てたら・・って、それが悔しくてさぁ・・・」
「・・・耕作・・・」
「俺刑事なのに・・そんな原田さんの心が、全然理解できてなかったんだと思うとやりきれなかったんだよ」
「でもそれは仕方ないよっ・・！！」
「・・拳！？」


返された言葉のあまりの勢いに驚いて、耕作は思わずまじまじと彼の顔を見た。
拳がなおも言い募る。


「隊長も魔が差した、って言ってただろ！？普段の彼は本当にいい人だった、ってのは、耕作が一番良く知ってる筈じゃないか？？でも、そんな人でも、ふと心の中の闇を覗いてしまうことがある・・きっとそれは誰にも止められないんだよ。だからそのことを耕作が悔やんでも仕方ないって。それよりももっと耕作自身が前を向かなきゃ・・！！原田さんを更生させるためにもっ！！」


一気に吐き出された言葉に込められた真摯な願いをひしひしと感じて、耕作の心が瞬時に熱い思いで満たされていく。


「・・・・ありがとな、拳・・・」
「礼を言われる筋合いなんてないって・・！！」


思わず口を突いて出た感謝の言葉だったが、しかし拳は即座にそれを否定した。


「・・え？？」
「だって・・俺たち仲間じゃないか・・！！」
「・・・そうだったな・・・」


訝しげな視線を向けた先にとびきりの笑顔を認めて、耕作の頬も知らず緩んでいく。
そして彼は拳に心から笑い返すことのできる今の自分の境遇にも感謝しつつ、改めてかけがえのない仲間達への思いを新たにしたのだった。







エピローグ（もしくはプロローグ）


「誰にでもある心の闇かぁ・・・考えたら怖いよなぁ？」
「馬鹿だなお前、そこで怖がってちゃダメだろ！？だからこそ俺たちが救っていかなきゃいけないんじゃないか・・！！」
「・・そんなことお前に言われなくても分かってるって！！」


そう・・心の闇は誰にでもある・・・そしてそれを遠からず身を持って知ることになろうとは、今の彼らには想像もつかなかったのだった・・・


Ｅｎｄ






後書きっつ〜か言い訳っつ〜か・・(^◇^;)

う゛〜〜ん・・・(;^_^A アセアセ…
感想にも書いたように、そもそもは今回の話を見て、村岡耕作というキャラがあまりにも可哀想だと思ったんで、何とか彼（の心）を救済しようと思ったのがきっかけなんすけど・・(^◇^;)
大まかなネタは年末からできてたんですが、どうにも作文ができなくてほったらかしていたところ、正月休みも最後になっていきなり何かが降りてきて（笑）朝からずっとパソに向かって仕上げた次第(^^ゞ
って・・・それでこれかい！？っつ〜ツッコミは、自分が一番良く分かってるんで、どうかなしにしていただいて・・・それより何より、書いているうちに何か違う要素が入ってきたような・・・ていうか、絶対ティガ入ってるよなぁ・・・と（笑）
なもんで、開き直って（笑）タイトルは８兄弟主題歌（ダイゴの副業グループ（爆））から拝借f(^ー^;
ま、そこはそれ・・隊長繋がりということで・・・（又か・・（笑））
んでもラストは・・・そんなつもりじゃなかったのに、何故か流れでこうなってしまったという・・(^◇^;)
・・・という訳で、最終章３部作をそこはかとなく！？示唆しつつ書き逃げします・・・(;^_^A アセアセ…

ともあれ、読んでいただいてどうもありがとうでした(^_-)-☆


２０１３．１．３ＵＰ