あわや全世界の壊滅か！？とまで思われたその事件は、犯人である精神生命体の自死という、思いもかけない結末を迎え、結果としてさほど世間に知られることもなく、ひっそりと幕を閉じたのだった。
そして・・・








「耕作、拳・・悪いが先に帰っていてくれないか？
・・俺は少し秋葉と話して・・そのあとすぐに行くから・・・」


部下２人にそう言うと、再び隼人は視線を前方に移した。
そこにはしゃがみ込んだままの秋葉の姿があり、その背中に依然として深い悲しみが宿っているのを認めて、隼人の表情が一段と愁いを帯びる。
その様子を見た耕作と拳は、一言、分かりました、とだけ返事をすると、愛と勝を促して、無言でその場を立ち去った。


・・建物内を暫しの静寂が支配する。
２人にはああ言ったものの、その静けさに呑まれ、彼に何と声をかけたらいいものかと思いあぐねて、隼人がじっと立ちつくしていると、不意に秋葉が立ち上がった。
相変わらず向こうを向いたままでその表情を見せることなく、言葉だけが隼人の耳に響いてくる。


「・・・確かにヤツは様々な星で悪の限りを尽くしてきた。だが・・それでも俺のたった１人の弟だった・・」
「死なせたくなかったんだな、東郷を・・」


・・抑えた声の間から滲む無念の思いを痛いほど感じて、隼人は心に浮かんだままを素直に口にした。


「・・・１人ではな・・・」


ぽつりとそう言って、秋葉がゆっくりとこちらを振り返る。
その目が真っ直ぐに隼人を捉えた。
・・と・・


「・・何故撃つのを躊躇った・・！」
「・・・・！！」


突然発せられた思いもよらない問いかけに、咄嗟には答えることができず、隼人は思わず秋葉から目を逸らす。
あの時、カルロス東郷の身体を羽交い締めにした秋葉に、俺ごとヤツを撃てと再三請われながらも、どうしてもそれができなかったのだ。
秋葉がなおも問い質す。


「俺自身の覚悟もできていた。・・ヤツと一緒に逝ければ本望だと思っていた。だからお前に頼んだんだ。・・にもかかわらず、お前は俺達を撃たなかった・・！！」
「・・君を死なせる訳にはいかなかったんだ。俺達は人の命を救うのが仕事なんだ・・それをいくら頼まれたからって、この手で何の罪もない君を殺すことなんてできる筈がないだろう・・！」


やっとのことでそう言って、隼人は秋葉を見返した。
・・が、その行為が、秋葉の更なる追及の言葉を誘発する。


「そのために地球全体を危険に晒してもか・・！？」
「それは・・・」
「ヤツが改心したからいいようなものの、そうでなければ取り返しのつかないことになっていたんだぞ・・！」
「・・・・」
「・・甘いな、隼人・・。お前は確かに優秀だが、その甘さが時には命取りになる。エクシードラフトの隊長として、地球のため・・全人類のために非情に徹することが必要な時もある。・・今後それを肝に命じておくことだ」
「・・・っ！！」


無意識のうちに唇を噛み、両の拳をきつく握りしめる。
確かに秋葉の言うことは正論だったし、それは隼人自身も十分すぎるほどよく分かっていたことだった。
しかしあの場合はそれだけではなかった。
そんなことよりももっと切実な思いが、隼人の心に待ったをかけたのだ。
それは・・・


「・・どうした？・・何か言いたいことがあるのか？・・尤も、俺にはこれ以上お前に言うことがあるとも思えないのだが・・？？」
「・・・死なせたくなかったんだ・・君を！！君が東郷を・・弟を死なせたくなかったのと同じように・・俺も君をあの場で死なせたくなかった・・生きていて欲しかったんだっ・・！！」
「・・・！？」


隼人の表情を見とがめた秋葉の、やや皮肉混じりの問いかけに、ついに本音が零れ出る。
そしていったんそうなった以上、もはや押さえはきかず、気がつけば隼人は、目の前の男を相手に、己の心情を吐露し続けていた。


「・・確かに君の言うとおりだ。いや・・それどころじゃない・・あの時の俺は・・俺自身の私情で動いていたんだからな・・それこそエクシードラフトの隊長失格だと自分でも思う。
けれどそれでも俺にはできなかった・・せっかく君との間に生まれた友情を・・あんな形で終わらせることなど・・到底できはしなかったんだ・・！！」


言い終わって大きく息をつく。
告白するまでにも何故か逡巡したうえに、いざ言いたいことを全て言ってしまうと、今度は秋葉に対する形容し難い思いが隼人の全身を支配する。
それは確かに友情・・には違いなかったが、かと言ってそれだけでは言い尽くせない別の何かが確実にあった。
だが、隼人自身にも、その正体が今ひとつはっきりしないのだ。
・・と・・・


「・・光栄だな・・・」
「・・え！？」
「お前がそこまで俺のことを思ってくれているとは思わなかったんでな・・。その気持ちはありがたく受け取っておく」
「あ・・ああ・・・」


秋葉に言われて改めて自分の言動を振り返り、訳もなく隼人は赤面する。
心なしか胸の鼓動も高まってくるようだった。
しかし、自分に生じたそれらの変化が意味するものは何なのか、隼人自身掴みかねているうちに、秋葉が更に言葉を重ねてきたので、それっきり意識はそこから逸れてしまう。


「・・だがな隼人、それとさっき俺が言ったこととは別の問題だ・・」
「・・無論それは分かっている。・・君の言葉はしっかりと受け止めておくよ。
・・ありがとう秋葉」
「礼を言われるほどのことはない。お前が俺のことを気に掛けてくれているように、俺もお前のことが心配なんでな・・それで忠告したまでのことだ」
「あきば・・！？」
「・・・さあ、そろそろ帰るぞ隼人。耕作と拳が痺れを切らすころだからな」
「あ・ああ・・そうだな・・」


向けられた笑顔に、つられて笑みを返しながらも、その意味と、何よりも彼の言葉の真意を、又しても隼人は掴み損ねてしまい、単に相鎚を打つだけで終わってしまった。
・・結局のところ今の隼人にとっては、自分と秋葉との間には既に固い絆が結ばれているのだという認識が全てで、それ以上の感情には思いが及ばないのかも知れない。
だが、それだけでも十分すぎるほどだった。
何故なら、そのことが彼の心を勇気づけ、奮い立たせているのは、まぎれもない事実なのだから。


「なあ・秋葉、君は決して独りじゃない・・地球には俺達がいるんだ。・・宇宙に帰っても、そのことを忘れないでくれよな」
「・・分かっている」


本部へとバリアス７を走らせながら、隼人はどうしても言っておきたかったことを秋葉に伝える。
そして言葉少ない返事の中に込められた彼の強い思いを十二分に感じ取って、心底満たされた気持ちになるのだった。








「元気でな。又会おう・・！」


・・その時はもしかすると、今回以上の危機が地球に迫っているのかも知れない。
しかしそれでもなお、隼人はその日を今から心待ちにしていた。
その根底に流れる感情が何なのか・・それにはまだ気付かないままに・・・



Ｅｎｄ


２９話を見返していて突如閃いた（笑）ＳＳ
尺の都合なんだろうけど、東郷の死を悲しむ秋葉とラストとの間に、あまりにも乖離があるんで、それなら・・と、例によって隙間を埋めてみた次第f(^ー^;
・・・タイトルが相変わらずそのまんまで何ともはや・・(^◇^;)
ともあれ、読んでいただいてどうもでした(^_-)-☆


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